楽響



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人へ。

我を甘く見てもらっては困る。

この茶金色に染めた体色と、
数えるのを躊躇うほどの水玉模様を侮るな。

そろそろ我も、顔の先が曲がり始めてから程々の時間が経ち、
時には口を使う度に勢い余って上唇に下唇が突き刺さり、
その度に若干の痛みを伴うが、凹凸の辻褄が合い、
自分でもなんとも厳めしい風貌になってきたとは言え、
無闇な暴食が故に、あなた方に出会う訳にはいかぬのさ。

我の目は全方位を見渡せる。
これまで幾度となく、同種が水面より上に引き抜かれる姿を見ている。

知っているのだ、
水面より伸びる一筋の線と、
その後から現れる少々魅力的な小魚の様なもの。

それらに魅了され、飛びついた彼らは連れ去られ、
ふと戻れば廃人のように途方に暮れているのを。

知っているのだ、
あなた方が遠く前に失った狩りの体験を忘れられず、楽しみ、
少ない可能性に歓喜し、騙された我らの抵抗に勝ち、
陸に揚げ、満足すればそれでいいことを。

この想いは、名のある湖で生き残る、
多くの群れの王、
あるいは
難攻不落な城郭の孤独な王に
共通する思考である。
かつて我々も、打ち上げられ、戻された命である。

では、また春の水温の上がる頃、
我々との騙し合いに興ずるがよい。

そして血気盛んな小僧には出会えても、
我らに逢うことは、よもや、ありますまい。

知っているでしょう、
あなた方の入れぬ区域があることを。
あなた方が岸辺付近で種々の誘惑をするも、
決して届くことのない場のあることを。

我々は
そんな場所をそれぞれ見つけ出し、
悠々と暮らしているのです。

生きるだけ生きたら、
湖底の養分となりうるまで。

                      中禅寺 茶鱒太郎
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by rakkyouh | 2008-12-21 23:16

♫本栖暮色

♪私のこの想い あなたに届けようと
 どれほどこれまで 私悩んだかしら?

 私のこの想い わかってもらおうと
 努力したけれど 私まだまだかしら?

 
 ただただ時間が 惨めに過ぎてゆく
 ただただ想いは 心で膨れるわ
 

♬やっと私が伝えた 言葉は重過ぎたの?
 きっと私の想いは あなたに届かないのね?
 
♫でも わたし・・・
 夕暮れに佇み 想うのよ いつまでも
 でも きっと・・・
 凍える両手は 震えて結べない 
 あなたと私を つなぐ 赤い糸を

♬(繰り返し)

♫(繰り返し)
 
 
本栖暮色:80年代アイドルの曲調をイメージし、
今一度お歌いくださいませ。
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by rakkyouh | 2008-12-20 23:06

枯れ渋色の放浪

キリリと冷える山。
その山並みの裾を縫うように、ひっそりと佇む湖。

凛とした雰囲気は人を遠ざけ、獣すら近づくことを躊躇させる神秘。
夜明けもそろそろの、薄暗く、うっすらと朝靄の立つ静まり返った湖面には、
朧げな月がホロリと映り、たなびく。

さて、その湖の岸近くでは、小魚達が水面に狂ったように乱舞し、
波紋がいくつものカーブを作り上げ、混じり合っては調和し、果ては消えてゆく。

その波の末端と、岸の大小様々の岩達との間の、僅かに透明に見透かせる中を、
そこにいるはずのない、桜鱒がゆっくりと進んでゆく。

彼は、鼻猛々しく屈曲し、鮭の如く情緒溢れる婚姻色を身にまとい、
何を思うか全く読むことの出来ぬ、それはそれは孤高の空気感を漂わし、
いつもと同じ道であろう、水面下1mを進んで行く。

はて彼は何を思い進む?

これからの彼を想像すれば、きっと孤高に生き、孤高に果てるのである。

さて、ふと見上げれば、そこには一つの柿の木があるやも知れぬ。
落ちた柿の身は、岩に跳ね、落下を続け、湖底に吸い込まれる。
きっと身を啄み、種を撒く役目の鳥に出逢うこともなく、
ただただ、数秒を冒険した柿の身は、渋かれ甘かれ、一言も発さずに、
果てるのである。

柿の身達は、親にぶら下がっていた頃は、それはそれは雄大な冒険、
豊穣な土との出会いを、夜な夜な語り合ったに違いない。

しかし、湖底に沈む柿の実達は、もはや隣り合っても、
会話をすることが出来ないのである。

淘汰されるのを待つ柿の身の上を、今日も孤高の桜鱒は泳ぐ。

そんな彼も、生まれはおそらく別の湖が故、孤高を認めざるを得ず、
ただ果てるのを待つ自分を強烈に意識するのである。
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by rakkyouh | 2008-12-16 01:54

妄想編その1

とあるそりゃあもう深い湖底のお話。
大小さまざまな鱒の群れが、ふらりふらりと、悠然と泳ぐ。

その中の、巨大な体躯の片鰭の鱒、3尺もあろうか。
対して、尺にギリギリ届くかどうかの鰭の荒れた若者。

ここでは、彼らを
虹爺、小太郎と呼ぶことにする。

「なあ虹爺、どうして上にいかないんだい?
 うめーもんがいっぱいあるぞ。」

「フッ、わしゃーオメーほど若くねえ、この3尺の体の浮き袋を想像してみろよ、
 きっと、もうそりゃー胃の腑が圧迫されてうめーもんも吐き出しちまうよ。」

「そういうもんかねえ・・。」

「そういうもんさ。ただわしの食ってるもんを見てみろよ、オメーほどの奴なんか
 なかなか旨いものよ。」

「へっ、俺を食ってもらっちゃ困るぜ。」

「小太郎よ、わしはこれでなかなか美食家よ。味くらいはわかるさ。
 今時分の姫なんざぁ、そりゃあもう堪らんものよ。ふふっ。」

「そういうもんかねぇ・・。俺にはまだまだ分からない話だね。」

回遊する集団は、風によって生まれた湖流に乗り、
岬の先端を通り過ぎようとしている。

「じゃあ虹爺、ちょっと腹ごしらえしてくるぜ。」

「ああ、きっと今頃ならよく育った蝉が湖面をたたいている頃だろうよ。」


上昇する小太郎の姿を、暗い湖底から虹爺が見上げながら呟く。

「わしも若い頃はああしたものだ。何分、歳をとると動くのが面倒になる。
 しかし、あの頃、浅場でワカサギを食った瞬間に、何かに引っ張られ、
 湖面の外に浮かんだ瞬間はいったいなんだったのであろう?
 思い出すだけで上唇が痛む・・。

 ただ、ここ数年あんな不思議なことがないのは、わしが湖底深くに留まってしまった
 ・・・からであろうか?」


その頃、小太郎は、
好物の蝉を捕らえた瞬間、得体の知れない力で湖面から浮かび上がり、
唇にチクリとした痛みとともに、呼吸もままならぬまま数秒の時間を過ごした後、
再び元の世界へと戻った。

「おーい!虹爺ー!」

響く小太郎の声、しかし、湖底の虹爺には聞こえない。

弱った小太郎は普段の力が出せず、
その背後から、大きな口を開けた、ブラックバスが猛然と迫るのであった・・。

 
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by rakkyouh | 2008-12-08 23:14

私の中の ビビリ公と釣り夫君

週末前夜
「もう道路はきっと凍てついて候・・。」
「ゆっくり行けば大丈夫だっべ。昼くらいにゆっくり行くべや。」

AM11:00
♪ピンポーン 料金は600円です♡
「いんや、イー天気だなや」

♪ピンポーン 料金は1900円です♡
「なーんも心配すっことねかっぺよ」
「・・・。」
「あんれ、気温0℃ってけ・・?」
「そなたのタイヤはサマーハイグリップタイヤ3分ヤマで候。」
「・・・。」

「道の中心がうっすら白くなって候。」
「バイクも走ってっし、ダイジョブだんべ・・。」

PM1:00
「しかし無事について何よりで候」
「さー今日もいっぺー釣ってけえるぞ」



PM4:00
「さすがにさみ〜なや、しかし」
「魚も釣れず、今日唯一のアタリもモノに出来なければ、
 テンションも気温も下がり、路面も凍てつくで候。」
「・・・。」

かくして、本日、
行きつけの湖 最終日となった・・・。
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by rakkyouh | 2008-12-07 23:34

残像スパイラル

万全の作戦が練ってあるのだ、フフフ・・。
夜明けと共にいつもの湖畔で右脳左脳コラボレーションフル回転。

ここは湖、意気込んで、ひとたび周辺の探りが終われば、
いつものように、しばし回遊を待つバカリなのか・・。

だが、

噂では居着きの猛者がいるらしい、
噂では狡猾に生きる転校生の茶鱒もいるらしい、
噂ではただの運に頼るしかないらしい、

でもああ、時間と共に頭を流れる焦燥。
ああ、作戦ってなんだったんだ・・。

!!!!!
動く!!!
肌で感じる時合。
来る、

それは決して釣れるという感覚ではなく、
現れるという感覚。

なすすべもなく、
ふと目線を移した先に
巨大な頭部から、巨大に盛り上がった背中にかけて
逆光に黒く浮かび上がった巨大な鱒。

かつて、別の山上湖でみた、紛れもない茶鱒の踊りである。

今思えば、あれは幻だったのか・・。

・・・・。

あれさえ見なければ、もう少し余裕のある精神状態を
保てたはずだ、
あれさえ見なければ、もう少し、今、お金に余裕があったはずだ。

残像は容易に脳を支配するのだ。
対し、脳は昼夜場所を問わず、残像と対峙すべく、あらゆる手段を計算し、
ベストな作戦を導きだす。

(文頭に戻る)
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by rakkyouh | 2008-12-05 23:40

妖気

頂いた山女魚の薫製。
身は香ばしく、美味しく日本酒と一緒にいただいたものの、
今でも残してある頭部。

なんとイカメシイ面構えか。
なんと惹き付けられる面妖さか。

生前はおそらく20cm前後、
ひとたび、イブられ、水気を奪われればこの容貌。

畏れ多し、渓の美女。


そう言えば、一昔前の話。

渓に降り、辺りを見渡し、孤独を喜び、渓流用の延べ竿を伸ばし、
さて両脇はV字の谷、はたまた撫で肩の濃密な木々の緑に、
頭上寸での所で見下ろされ、
早朝も過ぎながら薄暗く、視野も狭く、靄が立ちこめ、
上流にも下流にも、水の奏でるシャーシャーという音に遮られ、
他に聞こえる音があるものかないものか。
いったいこの透明感のある幻想的かつ、そこかしこから来る、
正体不明の恐怖感はいかがなものか。

ここからは想像の世界。

ふとセルロイドの目印がカクンと引き込まれ、
下流へと走るまだ見ぬ魚と並走し、息も絶え絶え、
流れの淀む岩の巻き返しに、意気揚々と魚を寄せ、
覗いてみたらこんな顔。

あな恐ろしや、あな幻や、
だって化け物だけは、信じないけど怖いのよ。

ふぅ〜、日本の妖気は、きっと世界には通じず、
我々のみが楽しめる、ねっとりと精神にまとわりつく、
情緒なのであろう。






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by rakkyouh | 2008-12-01 23:35


気品溢れる鱒族を求めて。自己満足型随筆集
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