楽響



新潟 荒川の鮭

毎年冬の恒例行事、鮭である。
昨年までは程よく冬の寒さを感じつつ、晴天に恵まれ、
かつ、釣果の方も
釣獲調査という名目に十分役立つものであった。

しかし今回の釣行においては
自然はかつてない、あるいは本来の手荒さで我々を包み込み
かつ、鮭においても、
歓迎の手法を手荒く、厳しくすることで
参加者達の会話の端々に
"修行"という言葉を使わしめたのである。

金曜深夜に出発。
天気予報は1mmの雨か雪、強風。
雪の関越を越えれば、どんよりとした重たい雲に
ところどころわずかに見える空。
パチパチとフロントウインドウを叩く霰。
受付に到着し、車のドアを開ければ、
ヌクヌクの体を一瞬で凍結させる強風。
厳しさが容易に想像出来る。
朝の受付時の案内では、増水の影響があり、
希望者には来週への変更も可能とあった。
釣り用語に訳せば、釣れない、ということか。
朝7時、釣開始。
まずは昨年いい思いをした場所に入る。
水が多いということだが、そのせいで濁りも強い。
昨年に魚が溜まっていたところをゆっくり流す。
いれば数投で何か起きるはず。しかし、
いつまでたっても何も起きない。加えて、
対岸や並びの参加者達にも何も起きない。
通常であればそこかしこで水飛沫が上がっているはずだ。
見上げれば、鳥の群れは風に逆らい必死に羽ばたいている。
ほとんど進まず、喘ぐような鳴き声が長時間続く。
風は下流側から波を逆立てながらゴウゴウと吹き、
糸は弓なりにおおきく弧を描く。
ときおり霰が顔面を打ち付ける。
数時間粘るが、何も起きない。周囲でも何も起きない。
移動。何も起きない。移動。何も起きない。
昨年までは産卵を終えて力尽きた者達があちこちで見られた。
今回に関しては一つもない。
また、鮭自体の姿も全く見えない。

夕方4時の調査終了まで、結局何も起きなかった。

翌日。
恒例として、帰路を考慮し昼には切り上げる。
半日の勝負。
水は減ったが、相変わらずの風と霰である。
しかし今日は手法を決めている。
入る場所には人がそれほど多くない、ゆえに
起点から一投一投釣り下り、
産卵床を作り停滞している者を狙う。
下るだけ下ったら、一箇所に留まり、
同じコースをひたすら繰り返す。
遡上する者との奇跡、運命の出会いを待つ。
かくして、
いざ第一の手法に入る。
途中、対岸の延べ竿師が釣り上げた。
いないのではないかというネガティヴな見方が消える。
しかし、釣り下り、下りきったところですでに残りおよそ一時間、
何も起きない。
時間が迫る中、根掛かりでルアーを失った後に、
リーダーを忘れたことに気付く。
仕方がないのでPEをスナップに直結する。
40lbのPEは、目立ち過ぎて不安になるが、
残り1時間の勝負、やむなし、
第二の手法に入る。
遠投。
同じところに投げ、同じところを巻いてくる。
単調だが、たまたま遡上する者がいれば、
たまたま掛かるという、運の釣り。
投げ続ける。単調、無考。
意識は次第に薄れ、動作のみが連続する。
残り時間もわずかになり、
釣って送るよ、と言っていた相手への言い訳を考え始める。
相変わらず風は強く、雲は黒く重い。
しかし時折その隙間から陽の差す瞬間がある。
そのとき、
リールを巻く手が止められる。
反射で強烈にあわせを入れ、糸を見る。
上流側に動く、根掛かりではない、
運命の出会いが来たのだ。
リールは6000番、40lbのPE、無敵。
相手を止めようと重心を後ろに。
普通のサイズなら、下流から巻き上げられる。
しかし、この相手は寄せられない、
右往左往のあと、強烈に下り始める。
締めていたはずのドラグがギャンギャンと鳴る、緩かったか、
しかし、強い!
川面に浮き出た障害物があるが、奇跡的に回避、
合わせてこちらは、岸際の枯れた背丈程の木々を、
竿を上げて避けながら岸を駆け下る、
この強さは
昨年のスレで掛かった92cmの雄よりも強い!
岸際に寄せる。
しかし、近付くと、再び沖へ走る。姿をみれば、90付近の雄、
ルアーは口にしっかり刺さっているように見える。
腹をみれば、赤いブナがしっかり見て取れるが、
背中は通常の者よりもシルバーに近い。
最近上がってきたものだろう。ゆえに、昨年のスレよりも強烈。
もう少しで岸にずり上げることが出来るが、
相手も抵抗する。
何度も繰り返し、そろそろ決着というとき、
目の前で針がスポリと抜けた.…
記憶には、
外れた勢いで上に跳ね上がるスプーンの動きが
スローモーションで刻み込まれている。

さようなら…

強烈なやりとりで針穴が広がったのだろう。
おまえの勝ち。立派。強かった。
正直、過去一番に悔しい。
と同時に、
こんな奴がいるのかという尊敬の念。
逃した相手と、その母川に感謝。
これを味わうと荒川鮭はもうやめられない。

来年は、掛かりやすさよりも、
抜けにくさを重視した針セットにしよう。

さあ、また来年。















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# by rakkyouh | 2016-12-11 22:59

アシストフック美学

針に糸を巻く。アシストフックだ。
獰猛な鱒のかかったフックと硬質頑固な金属スプーンの連結部分を
それはそれは柔軟な態度でいなしてくれる、素晴らしい性格を持ったものである。
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今回、これまでの経験上で気付いた部分を書き記す。

美しい鱒と美しく対峙すべく、見た目にもこだわりを。
作業にあたっては、まず針と糸の組み合わせを考えることから楽しめる。
糸はフライ用品を使う。フライを作ったことのない人であれば、
お店で
スレッドください、というと買える。
様々な種類があり、太めの糸、細めの糸がある。
経験によってわかったことだが、
太めの糸は余程気を使わないと巻き味が荒くなり
表面が凸凹になる。
逆に
細めの糸では、巻き味が繊細になる分、巻く回数が太めの糸に対して倍増する。
下の写真ではシルバーが太く、ワインレッドは細い。
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巻いた後の糸の表面の平滑さでは、細いほうがキメ細やかになり、均等になる。
より平滑であることは、より綺麗に見えて美しい。
また、同じ巻き方をすれば細いほうが糸を巻いた部分全体が細いから、より針の懐が深くなる。

色の組み合わせも面白い。
針の色はある程度限定されるが、巻く糸はそれこそ無限のように用意されている。
一方、肝心のスプーンにつなげる部分の軸糸に関しては、
ケプラートが機能上一番であると考えるが、色が地味である。
今回は別案として蛍光のリリアンを使ってみた。
 
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他の針の選択肢もいろいろある。
ススキ、ムツなどは、形状が特徴的で、色も面白い。
根掛かりの多い場所で使うことが多いので
針先が最初に岩に当たりそうな形状は避けることにした(ex.海津)
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こうして様々なパターンを準備すると、
眺めているだけでも楽しくなる。
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余談だが、
2016年、決めたこと。

普段使用する場所においては、1日のうちでの鱒のアタリがほんの数回あるかないかであるから、
よりシンプルに水底への集中力を高められるよう、今後使用するスプーンはシルバー1色のみのラインナップとした。
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アシストフックの方で色遊びをしよう。
これで、現場でのスプーンの色選びという悩みが一つ減った。
(色が合わなかったという言い訳は捨てる)

釣れるときは釣れる、これが経験上感じた現実である。
心が折れなかった者だけが出会える鱒。
心が折れそうになったら、風が吹き始めた瞬間、鳥が騒ぎ出した瞬間、
とにかく何かしらの変化を自ら探し出し、肯定し、それを時合いだと感じよう。
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# by rakkyouh | 2016-02-20 19:20

過剰な道具と夏の終わりの中禅寺

夏の休みの夢幻の思い出は

ひとたび日常に戻れば全てが空ろの虚ろである。

ふたたび現実の生活で満たされつつある部屋に居り、かつ

幻を現実へと引き戻す反芻の余裕がない精神状態においては

蝉の鳴き声も止み、コオロギなどが唄い始める夜ふけの頃に

夢幻に同行した屈強な道具達がボソボソと小言を始めるのである。


「ああ、

我々の今後の役目をなんとなさる、このままではあまりにも苦悶じゃわい、

酒など舐めている暇があればはよう決めなされ!いざ、いざ」


道具達は未だ傷のない身体を煌煌と輝かせ、

毎晩のようにボソボソと、長々と、騒ぐ。


「そうだな、

ちと寒いが、新潟の方に秋味釣りにでも連れて行くから

それまでちょいと我慢でもしていなさい」


などと、季節が先の話をすれば、


「ああ、我が身はそんな先までこのままか!きっと耐えられるものではないわい!

はようどこぞやに売りつけて自由にさしておくんなまし!」


などと、

ますます皮肉のような光をメラメラユラユラ放ちだすものである。

仕方がないのであれこれ他の手持ちの道具をひきずり出し

何か面白いことでも出来ぬものかと酒をすすりながら考える。

酒を足そうと立ち上がろうとすれば

そのとき

多種多様がひしめき合う混沌の疑似餌箱から声がかかる。


「もしもし、旦那も大変そうだね、

あんな道具らはそうそうこの辺じゃあ扱えるもんじゃねえ、

どうだい?俺と一緒に使ってみては?少しは役に立つかもしれねえぜ」


声の主は45gジグである。


なるほど、…… 、

ひとつ、試してみることにする。

過剰なリールに25lbPEを巻き直す。ふふふ、と楽しくなる。

間違いない。

未知の結果が待っているであろう良い閃きである。

道具達も静かにしているように見せながら、

内心相当に心が躍っているようである。


いざ、釣行。

湖畔で車を降りれば、驚くことに、鱒の匂いでいっぱいである。

間違いない。ふふふ。

夏も終わりの心の読めない、小雨に虚ろな湖面に

かつてない飛距離でジグを突き刺す。

糸はこれまでにない速さで吸い込まれていく。

そしてこれまでにない速さで湖底に到着する。手返しがよい。

涼しく深い湖底で戯れる鱒達よ、申し訳ない。

巻く、止める、巻く、止める、

巻く力は強力で、かなり楽々である。

コツリ、

通常では到達出来ない距離での明確な魚信。

すかざず合わせる。

掛かる。

引く、引く、そうか、春以降、

暖かくなるにつれ、鱒の強さは上昇し続けるのだった。

手前で強烈に突っ込む。駆け上がりだろう、藻の中に行きたいのだろう。

まてまて、ふふふ。

今日の道具をみよ。

無敵、屈強、壮烈、糸など微塵も出させるわけがないのである。

45cm程度のものを2匹釣る。

この大きさでこの引き、夏の終わりの鱒達は

想像以上の強さであった。

およそ5時半から1時間のなかでの出来事。

そうそうと8時には引き上げる。


今晩、夜更けに道具達はまたささやくだろう。


「また行かぬかい?」







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# by rakkyouh | 2015-08-30 18:15

ALASKA

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現地の車のライセンスプレートには”The last frontier”とある。

行くぞと決め、万全の準備をし、いざ夜のアンカレッジに到着、

深夜、スタッフT氏に迎えられる。しかし、全く現実味がない。

半年近く前に意を決して予約、これまでの長期に渡る準備期間、

あっという間だ。ほんとに始まったのか?

しかし翌朝、宿を出て道中の車窓を眺めれば、その景色の全てがバシバシと脳みそを刺激する。

とにかく、広大、壮大、雄大、巨大、悠然、唖然、

これでもかとパリパリに乾燥した青空の下には、

荒削りの大地、そびえ立つ褐色の山々、始まりの見当もつかない潔白な氷河、

遠くにドンと居座り続ける雪を冠した巨大な山、果てしない緑、緑、緑。

とにかく、目の焦点を遠くにすれば、遥か遥かのかなたまで。

景色は道中、段階を経て変化し、

森林をスポリと抜ければ、褐色の山岳部に入り、その後、見渡す限りの針葉樹林帯となる。

どこもかしこも地球がそのままであり、

そのなかにチョンと線を引いたようなハイウェイがあるのみである。

これまでも多くの景色を見てきたつもりだったが、この地は明らかに一線を画す。

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釣りの期間中は絵に描いたような雰囲気を持つロッジに泊まる。

太い丸太で小ぎれいに組まれた外観、

リビングにはオーナーの仕留めたムース、カリブーの角と頭蓋骨の飾り。

テラスの焚き火台、芝生、兎、気のいい人々、云々、

ここは夢の世界か。

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さて、アラスカの生き物だが、

グリズリー、ムース、白頭鷲、オオカミなどが代表的。

目に出来たのは、ムース、白頭鷲、ビーバー、カワセミ、狐、ウサギ、リス等。

グリズリーはいないのかと現地人に聞くと、人からは見えず、あちらからは見えている、と。

オオカミに関しては、

12年働いている現地のガイドが、目にしたのは2回だけだそうだ。今回目にするのは難しいだろう。

虫に関しては、蚊、ブヨ、小さな蜂。

蚊は日本のものの1.5倍の大きさがあり、

髪の上、服の上からブスリと刺してくる。刺されても日本のものほど痒くない。

ブヨは2mm程の小さなものだが、夕方現れ、刺す力が強い。跡が残り、痒い。

蜂は1.5cm程で小さく、花アブのようであり、興味津々で人に寄ってくるが、刺さない。

一度だけ、ビールを飲んだ唇に止まった個体があり、

一緒に味わいたかったのか、アゴでカプリと上唇を優しく噛まれた。




さて、さて、

いよいよ人生において緯度の最も高い地点アラスカでの釣り。

本やテレビで憧れるだけだった、遥かかなたの地が、目の前にあり、身体の後ろにもある。


そして、私の鮭鱒類のなかでのターゲットの頂点、キングサーモンである。


ラフティングボートで川を下りながらポイントへ移動する。

朝は冷える。気温は一桁台、温度差により川面が白くたなびく。

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川は淡いグリーンであり、太く、強く、そのほとんどが激しい。

ボートに揺られながら、ここでも周囲の景色に圧倒される。

連なる崖の規模がすさまじく、氷と水の浸食によるランドスライドというものでむき出しになったものだそうだ。

流れの上で揺られていると、ゆったりと、なんとも雄大な景色のなかで、

プカリプカリと夢のなかのようであり、悠久、深遠な時間を感じることが出来る。

私的に例えれば、TOKYO FM ジェットストリームのオープニングテーマがぴったりだ。


いざ、

一つ目のポイントに到着、ボートを降りる。

様々なスプーンを準備した。

ただし、スプーンはとてもとても難しいということで、現地の釣り方でトライ。

キングを釣りにきたのであって、釣り方に拘る必要はない。

holeと呼ぶ魚の溜まる場所で、イクラをネットで包んだものを流す。

オモリを底に当てながら、ユックリと底を流す。

(ちなみに根がかりはsnagという)

強い流れだが、底は取りやすい。糸が止まる、合わせる、

フィッシュオン!

瞬間的に全開に、強烈に、これでもかと、鋼のような竿がグニャリと曲がる!

強い流れのなか、キングは下り、激しくジャンプ! パツッ!と、糸が一発で切れる。

なんと、準備した50lbのPEは、全く使い物にならなかった。

ガイドは”だから言っただろう”という表情。

100lbを受け取り、巻き直す。

再開。頭の中は、なんだこの強さは!という感覚。

しかし、釣りの神様か仏様はこの日、微笑み続けてくれた。

その後も掛かる、掛かる。

相手は凄まじい力、暴君、怪物、想像を遥かに超える引き!

ドラグはほぼ全開に締めるよう指示されていた、

流れに乗ると寄せるのが不可能だからだ。

全てが竿の弾力と自分の力で勝負だ。

釣行前日、かかった後の特訓をT氏から受けていた。なるほど、やってもらってよかった!

こんなにすごいのか!凄まじい!

ここにおいて初めて、リールの強さ、竿の強さを知る。

今までの使い方は何だったのか。

引き寄せ、手前で落ち着いたかと思うと、そこからの破壊的な引き込み!

なかには引きずり込まれる人もいると言う、耐える!

巨大なネットを持つガイドの方へ誘導する。

ザブリと一発、ネットインしたその瞬間の抵抗も衝撃的だ、

ガイドが耐える、そして、ついにキングサーモンとの勝負に勝つ。

キング、キング、キング。


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口吻から頭部、エラにかけては黒く、身体の後部に向かって次第に鮮烈な赤が増す。

長く川にいるものは赤が強く、フレッシュランは色が薄いそうだ。


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今回手にしたキングの大きさはおよそ1m~1m10cm、20lb~30lb程度、

全てリリースしたため正確な計測はなし。




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多くの素晴らしいキングに触れ、見て、感じることが出来た。
ファイトも個体により様々、
根がかりのような停滞のあとに、驚く程の瞬間的な走りをみせたため、
竿の持ち手が煽られ、危うく親指が逆さに折れそうになったこともあった。

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釣りが終わる。

頂点を仕留めた結果、そこにあるのは、感動というか、なんというか、

今これを書きながら思い出しても、夢や幻のような感覚。

もう少し時間が立てば、記憶にようやく固着するかもしれない。あるいは、しないかもしれない。

思い返し、記録し、伝えることで、

固着をより早く、より強烈なものにしたいというのが今現在の状態。

そんな状態であるから、当時において、大物を手にしたときに起こるべき、

手足がプルプル震える感覚というのも、一切なかったのが事実。

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身体が震えるのは現実のなかでしっかりと理想を仕留めた反応、

一方で、

夢や幻のなかで濛々としたまま理想を仕留めた反応とは、

まるで草食動物が四つの胃を使ってゆっくりと反芻するように、

脳みそのなかで、消化するのに時間がかかるものであるか。

また、釣果だけにあらず、はるか遠隔地においての釣りの場合、

その景色、空気、雰囲気、香り、音、手触り、

すべてが消化に時間を必要とし、脳みそ内でグルグルと撹拌されているのだろう。

やはり、

ここまでエラいことになると、ある程度の時間が必要なのだろう。


今回、全行程を通じ、スタッフT氏のお世話になった。

氏曰く

「中毒性があるので気をつけてください」

見たところT氏は間違いなく中毒である。しかも重傷だと思う。

そしておそらくこの病原菌の感染力は強大であろうから、

私ももう…………。

薬として取りあえず、壁に貼ったポスターのKING(Chinook)にバッテンを付ける........。

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この病原菌の名を、”The last frontier”と言うとか言わないとか。


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# by rakkyouh | 2015-08-16 17:49

放浪鱒の昔話

通りすがりの放浪鱒に聞いた

それはそれは昔のお話です




昔々のことでありました

とある山の上の大きな湖に

一匹の大きな大きな鱒の鱒太郎が暮らしておりました


幼いころから大きな身体でスイスイ泳ぎ

大人でさえも鱒太郎にはかないません

なにしろそんな鱒太郎のことですから

えさの捕まえ方もミルミル達者になり

ほかの誰にもできないような見事な動きでえさを捕まえます

周りの鱒たちもその見たこともない動きにたいそう驚き

みとれております


そんな驚く鱒たちをみたものですから

鱒太郎は得意になるのも当然です

ある日

「ようし、もっとどんどん上手になって驚かせよう」と

見たことのない動きの練習にはげみました

何年も何年も

えさを捕まえながら

身体をひねったり

グルグル回転したり

上に向かって跳ね上がったり

それはそれはもう種々の技を身につけていきました


もとより鱒太郎は

一つのことに打ち込む気質でありましたから

えさを捕まえては

ああ上手くいった

ああ上手く行かなかったなどと

毎日のように考えて

次の日のえさの時間に臨むのでした


そんなことですから

お花見や七夕や十五夜の月の日などの

湖中の鱒たちのあつまる宴会などにもいくことがありませんでした


鱒太郎のいない

とある宴会の話に聞き耳をたてますと

やれあの鱒の夫婦に子ができたよ

とか

狐岩の鱒吉がなくなったよ

とか

今年の熊岬ではいつもより小魚が多くいたよ

とか

狸浜で鹿の足を初めて見たよ

とか

それはそれは楽しい話で盛り上がっております


一方

鱒太郎の方は相変わらず

今日の朝の動きは

ああした方がよかっただとか

こうした方がよかっただとか

一人大きな岩の下で考えながら眠りにつきます

その体は他のどの鱒よりも

はるかにはるかに大きくなっておりました


湖中の鱒たちは

催しごとなどを通じて皆仲良しです

朝や晩などのあいさつも

なんだかんだとついつい長引きます


一方

鱒太郎の方は相変わらず自分の鍛錬に励みます


ただ

周囲の鱒たちはもう

鱒太郎の変わったえさの取り方を見ることに

とっくのとうに飽き飽きしておりました


ですから

鱒太郎の方も

もう周りの目を意識することもなく

いかに自分の思い描く動きが出来るかに必死になりました


そういう時間が続きますと

ますます鱒太郎と話の合う者がなくなりました

そこそこ素早い動きでえさをとる者なども

あまりにも尋常とかけ離れた鱒太郎の動きには

いくらなんでもついていくことが出来ませんし

どうしたらいいのかと教えてもらっても

鱒太郎の話は難しくてさっぱりわかりません


鱒太郎はついに引っ越しました

誰も住まない

えさをとるのがとてもとても難しい場所です

新しい動きを身につけるためです


鱒太郎は孤独になりました


ある夜

眠りにつこうとすると

はるか遠くから宴会の声がかすかにかすかに流れてきます

鱒太郎はウトウトしながら

ああ

これほどえさのとりかたを突き詰めることが

果たして自分にとってなんだったのだろう

周りの普通の鱒達はあのように楽しそうに生きているではないか

いっそ自分もあのように生きればよかったのではないか

そんなことを考えながら

いつの間にか眠りにおちておりました


とある年のことです

毎日のように激しい雨が降り続きました

毎日のように湖の水は増え

毎日のように強い風が吹くものですから

湖の水はかき混ぜられて全体に茶色く濁り

何も見えなくなりました

そしてとてもとても寒いのです


えさがすっかりとれなくなりました

かつて鱒太郎の住んでいた近くの鱒たちは

すっかりやせてしまいました


しかし遠く離れた岬の鱒太郎はどうでしょう

まだまだ新しい動きを考えたり

誰もいかないような未知の場所に行ってみたり

ありとあらゆる方法を使って

十分に食べることができました


あるとても寒い夜

鱒太郎のもとに一匹の鱒がやってきました

はじめはわかりませんでしたが

よく見れば昔の住処でよく遊んでもらった老翁鱒です

とても痩せています

そしてその後ろには昔の住処の見慣れた仲間たちがついてきます

彼らもとても痩せています

老翁鱒は

どうか我々を助けてくれと鱒太郎にお願いにきたのです


次の日から

鱒太郎はみんなのために必死にえさをつかまえました

来る日も来る日もつかまえました

鱒太郎の動きは何かに取り憑かれたように素早く冴え渡り

毎日毎日信じ難いほど多くのえさをつかまえました

そうして

仲間達はすっかりもとのように元気になりました


ある鱒は当時を思い出しながら

いったいどうするとあのように動けるのかさっぱりわかりません

まるでそれは怒り狂ったけものようであり

一方でとても神々しく神聖で美しいものでありました

などと言っていたほどです


月日が流れ

湖もゆっくりと元の姿に戻りつつあります


ある月夜の晩

鱒太郎は老翁鱒と並んで眠りにつきながら

ゆっくりとゆっくりと語りかけました


己のために技を磨いていたときはわからなかったが

きっと技とは誰かのために使って初めて役に立つのだ

技を磨く時間が長ければ長いほど

大きな力を出すことが出来る

その過程で私は心が折れかけたが

それに耐えてきた甲斐があったものである

一方で

小さな技をたくさん使う者があることもわかった

彼らは普段からコツコツと誰かの役にたっているからだ

おそらくこの世は

足すことも引くことも出来るようでありながら

太古からすでに

全体を見れば凸凹のない

おおきく満たされた一つの輪なのであろう


老翁鱒は

夜空に浮かぶ黄色の三日月を

半分に閉じた薄目に眺めながら

うっすらと笑い

眠りにつきました


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# by rakkyouh | 2015-06-26 22:41


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